昨日、私に、待望の赤ちゃんが生まれた。
妻が、産気づいたかと思ったら、3時間後には、出産。
という、とても珍しい、安産だった。
ついに、昨日、パパになった。
40歳にして、ようやくパパになれたのだった。
そして、今日、一通の手紙が、届いた。
消印は、2220年1月1日。
差出人はタカシ。
「ひいおじいさん!
おめでとう!
昨日は、ボクのおじいさんの誕生日でしたね。」
それは、そんな言葉で始まる、不思議な手紙だった。
「驚きましたか?
ボクは、ひ孫のタカシ。
未来から、手紙を出しています。
あなたが研究していた『過去に手紙を送る技術』ですが、
ついに、今日、完成しました。
ひいおじいさん!
あなたの、夢が、今日、完成したのです。
ぜひ、楽しんでください!
ひ孫のボクが、あなたに、一番、お伝えしたいことは、
『もう、戦争は、終わりました。』
ということです。
取り急ぎ、今日は、そのことをお伝えします。」
という内容が続いた。
私は、量子力学の研究者。
確かに、私は、過去に手紙を送ることができたらいいのに、という妄想を、常々、抱いていた。
文面は続いていた。
「ひいおじいさん!
『もう、戦争は、終わりました。』
今、ボクたちの周りに、争いは、ありません。
世界のどこにも、戦争は、ありません。
50年前に、すべての国が、武器を捨てました。
そうしたら、お金も、エネルギーも、急にあまってしまいました。
そして、それを、貧しい人に与えたら、飢餓と貧困が、いっぺんに、なくなりました。
そして、世界は、豊かで、平和になりました。
『もう、戦争は、終わりました。』
お金も無くなりました。
パン屋さんは、美味しいパンを作り続けています。
定食屋さんは、美味しい定食を作り続けています。
野菜屋さんは、定食屋さんに、毎日、美味しい野菜を提供し続けています。
種屋さんは、毎日、美味しい、野菜の種を作って、野菜屋さんにあげています。
運転が好きな人は、バスの運転手、電車の運転手、タクシーの運転手になり、毎日、運転を楽しんでいます。
大工さんは、毎日、立派な家を作り続けています。
もう、奪い合うことは無くなりました。
何か足りない人がいたら、みんな、先を争うように、施してくれます。
だから、お腹の空いている人は、誰一人として、いません。
みんな、裕福になりました。
『もう、戦争は、終わりました。』
みんな、過去のことは、忘れました。
過去の心の傷は、新しい喜びで癒されました。
もう、心の病気もありません。
みんな、過去に、戦争があったことすら、忘れてしまいました。
ある時、みんな、気づいたのです。
争いを記憶することに、何の意味もないということに、気づいたのです。
争いを記憶している限り、幸せにならないことに気づきました。
それ以来、愛された記憶以外の記憶を、みんな、捨ててしまいました。
愛された記憶以外、持つ意味がないことに気づいたからです。
そして、みんなが、幸せになってしまいました。
なので、みんな、愛で満たされ、余分なお金を求めなくなりました。
生きていくに、必要な食事と、睡眠と、衣服があれば、十分だとみんなが思ったとき、いっぺんに、物があまりはじめました。
そして、女の子たちは、お互いの、洋服を交換し合って、みんなで、ファッションを楽しんでいます。
ご飯が足りない時には、おとなりに行けば、ご馳走してくれます。
そして、みんな兄弟姉妹になってしまいました。
『もう、戦争は、終わりました。』
ただ、残っているとしたら、子どもたちの喧嘩です。
でも、すぐに、仲直りします。
大人になるまでは、喧嘩と仲直りを繰り返しますが、
大人同士が、争うことは、もう、なくなりました。
風邪をひくこともあるし、怪我をすることもある。
でも、それは、大人になる過程での出来事です。
大人になると、自分を大切にできるし、他人も同様に大切にします。
他人を喜ばすことなしには、自分の喜びもないことを悟っています。
自分を大切にしなければ、他人を喜ばせることもできないことを悟るようになりました。
それを悟った人が、大人です。
この前、12歳で、大人になった子ども(?)もいました。
大人になるまでは、自分のやりたいことに夢中になります。
でも、いつの日か、自分のやりたいことが、他人の喜びにならないと嬉しくなくなります。
だから、いつしか、他人の喜びを、生き甲斐に感じ、さらに、自分を磨くようになります。
『もう、戦争は、終わりました。』
他人と自分の価値観の違いで、争うことがなくなりました。
逆に、違う価値観を受け入れることで、自分の価値観が、広がることに気づいたからです。
自分の価値観が広がると、自分の喜びも広がります。
自分の幸せも、無限に広がっていきます。
だから、みんな、自分にない他人の価値観をたくさん受け容れようとしています。
『もう、戦争は、終わりました。』
キリスト教も、ユダヤ教も、イスラム教も、仏教も、ただの兄弟姉妹になりました。
どの宗教が、求めていたものも、同じであったことに気がついたからです。
ただ、趣味が違っていた程度のことで、争うことに意味が無いことに、みんなが気づいたからです。
黒人も、白人も、黄色人という言葉もなくなってしまいました。
ある時から、みんな、肌の違う人と結婚することにしました。
そうしたら、みんな、
おじいさんおばあさんのうちの一人は、白人。
おじいさんおばあさんのうちの一人は、黒人。
おじいさんおばあさんのうちの一人は、黄色人。
になりました。
だから、みんな、白人、みんな、黒人、みんな黄色人です。
『もう、戦争は、終わりました。』
過去は、もう、どうでも良いと思っています。
今が、こんなにも、幸せだから。
過去の試練は、過去の自分にとっては、必要な試練でした。
真実に気づくために必要だった。
でも、もう、真実に気付いたから、過去の試練は、必要ないと気づきました。
もう、みんな、真実を知りました。
もう、みんな、真実に気づきました。
だから、もう、試練は、起きません。
お金が無くても、支援を得られます。
お金が無くても、誰かが、ボクを食べさせてくれます。
お金が無くても、十分な食事と十分な睡眠が与えられています。
そんな風になったら、お金が、なくなってしまいました。
『もう、戦争は、終わりました。』
エネルギーも余るようになってしまいました。
だから、飢える人もいなくなりました。
石油を掘るのも、辞めちゃいました。
太陽電池、水力発電、燃料電池、自然エネルギーのみで、みんなが暮らしています。
車は、すべて、太陽電池の充電式自動車になりました。
『もう、戦争は、終わりました。』
離婚も無くなりました。
みんな、初恋の人と結婚しています。
そして、だれも離婚しません。
初恋の人が、運命の人であり、それ以来、ずっと、その二人で、恋をしています。
一緒にいる時間が長くなるほど、二人の距離が縮まるので、他の人に惹かれることは無くなりました。
『もう、戦争は、終わりました。』
ただ、今を幸せに生きています。
病気も無くなりました。
ストレスが無くなりました。
好きなことをすることが、他人を喜ばせることです。
好きなことをすることが、豊かな食事と、豊かに睡眠を与えてくれます。
だから、病気にならなくなりました。
疲れたときは、充分に、休みます。
やりたいことがある時に、やりたいことをやります。
それだけです。
頑張っている人はいません。
みんな、楽しんで、働いています。
それだけで、十分な食事も睡眠も得られています。
だから、病気もありません。
『もう、戦争は、終わりました。』
学校も無くなりました。
子どもたちは、自由に遊び回っています。
音楽の好きな子どもたちは、音楽に夢中になっています。
科学が好きな子どもたちは、実験に夢中になっています。
生物が好きな子どもたちは、昆虫や生き物の観察に夢中になっています。
サッカーの好きな子どもたちは、サッカーに夢中になっています。
大人たちは、その姿に感動し、癒されます。
そして、感動した大人たちは、子どもたちに、パンや、ジュース、ハンバーグをご馳走してあげています。
子どもたちは、いろいろなお家に寝泊まりしています。
みんな、叔父さん。
みんな、叔母さん。
みんな、親戚です。
『もう、戦争は、終わりました。』
『もう、戦争は、終わりました。』
もう、誰も、傷ついている人はいません。
自分を傷つける人もいません。
他人を傷つける人もいません。
ひいおじいさん!
『もう、戦争は、終わりました。』
ありがとう!
ひいおじいさんをはじめ、みなさまの努力によって、
未来は、戦争のない時代になっています。
ありがとう!
心からの感謝をこめて。
ひ孫のタカシより。」
そんな不思議な手紙が、今日、届いた。