コトちゃんは引きこもり(1)

【 やっと、分かったぁ!】

 

 

僕の部屋は、1階にある。

 

しかし、初めて僕の部屋に来た人は、口を揃えてこう言う。

 

「のび太の部屋みたいだなぁ〜〜。」

 

僕の部屋は二階ではないが、机の向こうには窓があり、その窓枠は今どき珍しい木製のものだ。

 

確かに、僕の部屋には、押し入れがある。しかし、ドラえもん専用の布団はないし、机の引き出しを手前にスーッと開けて、ヒョイっとそこに飛び込もうものなら、間違いなく引き出しが壊れるから、誰もそんな馬鹿なことはしない。

 

ある夏の日、そんな僕の部屋に一人の人物が突然飛び込んで来た。

 

「分かったぁ~!やっと分かったの~!」

 

僕の部屋に入ってきたのは、ドラえもんではなく、僕の妹、コトハだった。

 

コトハは、ずうーっと自分の部屋に引きこもっていた。

 

中学生の時、優等生だったコトハは、地元で一番の進学高校に入学したが、高校生活が始まると、急に引きこもり始め、半年後にはコトハの高校生活が終わった。

 

精神科のお医者さんは、コトハを「うつ病」と診断したが、コトハは精神科で処方される安定剤には一切口をつけず、憂鬱な表情でこう言うのだった。

「何かが、違う。」

 

「何かが、違う。」が、コトハの口癖だった。

 

「何かが違う」というコトハの口癖に対して、僕も、父も、母も「何が違うんだ?」と尋ねたが、コトハは小さな声で「何が違うのかは分からない…。」と、ボソッと答えるだけだった。そして、冴えない表情をしたまま、自分の部屋に閉じこもってしまう。そんな日が続いていた。

 

そんなコトハが、急に明るく大きな声を出して、僕の部屋に入ってきたのだから、僕はその人物が誰なのか、最初、分からなかった。

 

「お兄ちゃん!コトちゃん、やっと分かったのぉ~!」と言われ、やっと、目の前で話している人物がコトハであることに気付いた。

 

「なんだっ!コトちゃんだったのか?どうした、コトちゃん?」と、僕は言ったが、僕の言葉に聞く耳を持つコトハではなかった。

 

「お兄ちゃん!なんで、人が不幸になってしまうのかが分かったの!

 

そして、みんな幸せになれることがわかったの!」

 

コトハは、興奮冷めやらない様子だ。

 

「不幸の原因は罪悪感。つまり、罪悪感があるから、人は不幸になるの!罪悪感っていうのは、『私は悪いことをしてしまった』って、心の中で思ってるっていうことなんだけど、心の中で『私は悪いことをしてしまった』って思っているから、悪いことが起こるの!」と一気に続けた。

僕は、「ん…???

 

コトちゃんの言ってること、よく分からないんだけど…。オレ、別に何か悪いことをした訳でもないし…。」と、興奮して話すコトハを落ち着かせようと少し冷めた口調で答えた。

 

すると、コトハは「そう言うと思ってました!」と言わんばかりに間髪入れず、僕に変な質問を投げかけてきた。

 

「じゃあ、お兄ちゃん、聞くけどさ〜あ。過去1年間にお兄ちゃんがやってきたこと、ぜんぶ、コトちゃんに話して!例えば、セクシュアリティな内容とか。」と。

 

僕は、一瞬「えっ?!」と戸惑った。

 

その一瞬を見逃さなかったコトハが言う。

 

「その『えっ?!』が罪悪感なの!そして、その罪悪感があるから、お兄ちゃんは幸せを感じられないの!」。

 

自信に満ちた、力強い言葉だ。

 

僕は、胸を裂かれるような痛みを感じた。

 

 

つづく