コトちゃんは引きこもり(12)

【1円玉より小さい何か】

 

「罪悪感があるからよ。」と、コトハは言った。


僕はまた、いつの間にか、目の前にコトハがいることを忘れていた。そして、そのコトハの言葉に、僕は心の内を見透かされているような気がして大きく動揺した。


胸の呼吸か心臓の鼓動かは分からないが、胸の奥が、やたらドキドキしている。ただ僕は無言のまま、コトハの目を見つめている。


コトハは静かに続けた。


「お兄ちゃん。コトちゃんの言ってること、頭では分かるのよね。でも感情が付いて来ないんでしょ。実際、『みーんな一つ』っていうことは、お兄ちゃんが言った通り、『当たり前で普通のこと。』それが現実なの。


この世の中も、この世界も、調和していて平和で愛に満ちて一つになっている。そして、とても暖かい。それが現実なの。


でも、お兄ちゃんは、その当たり前で普通のことを受け容れられない。だからお兄ちゃんは、頭と心がバラバラになっているみたいで混乱している。お兄ちゃんの感情は、調和していることを受け容れられない。お兄ちゃんの感情は、世界が愛で満たされているという現実を拒否したがっている。そのお兄ちゃんの感情が…。」


と、少し間を空けてから続けた。


「それが、まさに、『罪悪感』なの。」


僕の胸は、まだドキドキしている。


「何で、コトハは、僕の心の内が分かるのだろうか?」と、僕は心の中でつぶやいている。


コトハは、声のトーンを急に上げた。


「じゃあ、コトちゃん基礎講義もそろそろ最後ね!お兄ちゃんの頭も、だ~いぶ、柔らか~くなってきたみたいだしねえ。お兄ちゃん、もう一回、頭を柔らか~くして、考えてよ~。まずは、これ受け取って!


はい!」


と、コトハは、僕の気持ちは意に介さないという調子で明るく言い、1円玉よりも小さい何かを、僕に投げた。


僕は、その小さくて軽い何かを、両手ですくうようにして受け取った。


両手の中には、「ヒマワリの種?」が一粒入っていた。


「じゃあ、問題ね!そのヒマワリの種と宇宙、どっちが大きいでしょうか?」


「そりゃあ、宇宙のほうが大きいだろ?」と、僕は、力なく答える。


「ピンポーン!せいかーい!」というコトハの明るい声は、僕の力の無い声とは対照的だ。


「確かに今はそうね。じゃあ、昔は?


そのヒマワリの種と宇宙、どっちが大きいでしょうか?」


「えっ昔? 昔も、宇宙より、ヒマワリのタネが小さいに決まってんだろ?」と僕は、心の中で思ったが、その解答を口に出すのをやめた。


たぶん、コトハは、昔はヒマワリの種のほうが宇宙より大きかったと言わせたいのだろう。でも僕には、ヒマワリの種のほうが宇宙より大きいとは言えそうに無い。僕がそう心の中で思っていると、コトハが声を出した。僕は、何も答えていないのに。


「お兄ちゃん、だ~いぶ頭が柔らかくなってきたみたいね~。


そうなの! 宇宙は昔、ヒマワリの種より小さかったの。」


セミたちは、まだ静かにしている。



つづく