コトちゃんは引きこもり(2)

【 一緒に幸せにならない? 】

 

 

「だから、お兄ちゃんは、幸せを感じられないの!」と話すコトハの声は、自信に満ちあふれていた。

 

その時、妹のコトハが10歳年上の女性に見えた。が、少し時間が経ち、われに帰ると、僕はコトハに怒りを覚えた。

 

「コトちゃん!何、言ってんだよ!コトちゃんは、今まで散々、お父さんやお母さんを心配させて苦労させてきたんだぜ。そんなコトちゃんに、『だから、幸せになれないのよ。』なんて、言う資格がどこにあるんだ?」と、僕は、コトハを口で攻撃した。

 

が、コトハは冷静なまま、まったく、動じる様子がない。

 

そして、小さな声でポツリと応えた。

 

「その怒りも、お兄ちゃんを不幸にさせている罪悪感なの。」

 

僕は、また、胸が裂かれるような痛みを感じた。と同時に再び、妹のコトハが10歳年上の女性に見えてしまった。

 

さっきまでの炎のような怒りに水をかけられた僕は、冷静さを取り戻し、力の無い声でボソボソとコトハに尋ねた。

 

「どうしちゃったんだ? コトちゃん? 急に大人になったみたいなんだけど…。」

 

「だから、分かったのよ、お兄ちゃん!コトちゃんは、お兄ちゃんを責めてなんかないのよ。お兄ちゃんは、罪悪感から怒りの感情を出してしまっただけだから。」

 

落ち着いて静かに語るコトハの声に、胸の痛みが癒されるような温かさを僕は感じた。

 

「ところで、コトちゃん。さっきから、『罪悪感』『罪悪感』って言ってるけど…。 何だ? その『罪悪感』って言うのは?」 

 

「だから、さっき言ったでしょ。お兄ちゃんは、『私は悪いことをしてしまった。』って思ってるということよ。お兄ちゃんが怒ってしまったことが、お兄ちゃんに罪悪感がある証拠。つまり、お兄ちゃんは心の中で、『私は悪いことをしてしまった。』って、ずーっと思っているっていうことなの。」

 

というコトハの話に、今度は少し冷静になって耳を傾けたが、いまいちコトハの言っていることが理解できない。

 

「なぁ、コトちゃん。大人って言うのは、誰だって、人に言いたくないことが一つや二つあるもんだよ。確かに、コトちゃんの言う通り、それが罪悪感としてオレの中にあるのかもしれない。でも、どこかで、うまく妥協して協調性を保って生きていく。それが、大人だし大人の社会っていうもんだよ。これからコトちゃんも社会に出ることになる。そして、コトちゃんが仕事を始めるようになったら、そんなこと言わなくなるって。」と、コトハをたしなめるように僕は言った。

 

「確かに、お兄ちゃんの言うとおりだと思う。

 

でも、だからって、なんで不幸を選択して生きていくの?

 

どうせなら、幸せを選択して生きたほうがいいと思わない?

 

もちろん、この世に幸せが無いというのならしかたがないわ。

 

でも、幸せがあるのに、何であえて不幸を選択して生きるの?

 

幸せがあるなら、幸せを選択して生きるべきよ。」

 

と、静かだが力のこもった声だった。

 

が、僕には、コトハの言っていることがよく理解できない。

「幸せ?不幸?罪悪感?ん~。あまりピンとこないな~。そんでもって、結局、コトちゃんは何が言いたいんだ?」と言う僕に対し、コトハは力強く答えた。

 

「お兄ちゃん! コトちゃんと一緒に、幸せにならない?」

 

「はあ…?一緒に幸せにならない?」コトハの満面のほほえみに、僕の頭の中は真っ白になった。

 

 

つづく