コトちゃんは引きこもり(3)

【人は永遠に生き続ける。】



頭の中が真っ白になった僕は、コトハが目の前にいることを忘れ、なにやら一人で考えごとをし始めた。


そう言われれば、今まで、「幸せになろう」なんて考えてみたこともなかったのかもしれない…。


幸せを求めること自体、

はかない夢…、

手に入れられないもの…、

不可能なもの…、

そう思っていたのかもしれない…。


とりあえず、今、それなりにお金を稼いで…、

それなりに生活ができて…、

それなりに頑張って…、

友達と酒を飲んで…、

それで、十分じゃないか…、

そう思っていた。


というより、そう自分に言い聞かせてきた…。


もし、コトハに「それが幸せ?」って訊かれたら、「そう思うしかないだろ?それが、大人っていうもんだよ。」と答えるんだろうな、と、僕はいつの間にか、コトハに質問されるだろうことを先回りして考えるようになっていた。


もしかしたら、コトハの言う通り、僕は幸せになるという選択肢を捨て、不幸を選択して生きてきた、ということなのだろうか…。


僕は、なんだか一人で、そんな考えごとをし始めていた。そして、思わず言ってしまった。


「確かに、オレは幸せを選択してこなかったのかもしれないな…。」と。


すると、突然、コトハの笑顔が目の前に現れた。


「だから~!。お兄ちゃん、ちょっと私の話に付き合ってよ!」と、コトハがニコニコ笑っている。


コトハが、目の前にいたことを思い出し、本音を言ってしまったことが恥ずかしくなった僕は、「6歳も年下のコトハに本音を言ってしまった…。」と、心の中で、後悔した。


しかし、そんな僕の気持ちを察する様子もなく、コトハは話を続けた。


「まず、お兄ちゃんに分かってもらわないといけないことは…。


『人は永遠に生き続ける。』っていうことなの!」


「はぁ?」と、僕は、あっけに取られた。


そして、とっさに、「コトハは、頭がおかしくなったのだろうか? いや、きっと、変な宗教にハマってしまったに違いない。」と、思った。


と、同時に、さっき素直な本音を言ってしまった恥ずかしさを忘れ、冷静さを取り戻した。


「コトちゃん、何か変な宗教に入ったんだろう?今まで、死ななかった人間は一人もいないだぜ。コトちゃんは、何歳まで生きると思ってんだよ。仮にコトちゃんが、永遠に生きるとしても、オレがあと100年以上生きることは、絶対にないんだぜ。」


しかし、コトハは落ち着いた口調で応える。


「確かに、お兄ちゃんの言っていることは間違いじゃない。でも、肉体の死は魂の死ではないの。例えば…。


そこのヒマワリを見て。」


と、窓の外に見えるヒマワリを指差した。庭には、50本くらいのヒマワリが、真っ青な夏空と白い入道雲を背景にして、乱雑だが力強く咲いている。


その時、セミたちが、「ミーン、ミー、ミー、ミー!」と、大きい声で鳴き始めた。



つづく